宿屋のベテランの番頭さんは、履物でお客の品定めをするという


 宿屋のベテランの番頭さんは、履物でお客の品定めをするという。着物は少々くたびれていても、おろしたての桐の柾目(まさめ)の下駄を履いている男はお金持ち。キンキラのアクセサリーをこれ見よがしにぶらさげていても、かかとの斜めになった靴を履いているおばさんは駄目とか、その種の鑑定である。
 私もこのやり方をもっぱら女性に当てはめ試みているが、的中率はよいようである。もっとも、私の はふところ具合をあてるのではなく、彼女達の清潔度ないしは身持ち具合を勘案しているのだ。
 フェラガモとかなんとか、高級な靴をはいていても手入れが悪かったり、ぞんざいにはいていたりする女性はだいたい薄汚くだらしがない。こんな人は必ず靴にすぐ接触する靴下が汚れているに違いない、と私は勘ぐるのである。
 一般に、上等な靴をきちんと美しくはいている女性は秀でたおしゃれである。
 女性は、いや男性でもほぼ同じことだが、人体の上部からおしゃれをする。顔はその中でも最重要部位であることを私は疑わない。そしてだんだんに下降しながらおしゃれは進行する。しかし今日のように生活が豊かになり、物資が贅沢になってくると上半分のしゃれでは自己主張しにくくなるのもまた事実なのである。
 トータルファッションなるものの必要性が、ここに生まれてくる。
 さらに、他人様には見えないところへのおしゃれが目下流行していることも、人間の心理的満足感を考えてみればわからないこともない。
 私は電車内でひそかな楽しみを行っている。まず向こう側にいる女性の靴を見るのである。そして、この人はどんなドレスを着ているのかな、と想像しながら目線を上げていくのである。
 私の推測が当たることもあり、はずれることもある。これで、5分や10分の楽しみは持つことができるのだ。

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